重ねた肌の温もりは、嫌がおうにも前世での情事を思い起こさせた。
あの、切なくも激しく愛し合った、懐かしい日々を……。


















「……ねぇ……ユウ……」
「……なんだ……?」



気だるい身体を抱えたまま、アレンは神田の胸に描かれた梵字を指でなぞる。



「この印は……キミとあの剣を結ぶ、契約の証しなの……?」



前世はなかったはずの梵字が、
ファントムソードと神田をより深く結びつける証しなのだと、
アレンは直感で知っていた。



「……ああ……そうだ……。
 この印がある限り、六幻は俺以外の誰にも使うことは出来えねぇ……」
「ふぅん。そうなんだ……。
 ボクとイノセンスの繋がりって……一体何なんでしょうかね?
 僕にも、ユウのような契約印があれば、
 またイノセンスを……使うことが出来るんでしょうか……?」



自嘲気味にアレンが呟く。
その横顔が、やけに物悲しく神田の胸に響いた。


生まれてこの方、アレンにとって身体の一部だったイノセンスが、
今はその身体から消え失せている。
大切な片腕を失ったアレンは、
まるで心の拠り所を失ったかのように痛々しく、また頼りない存在に見える。


だが、一度ティキに破壊されたイノセンスが後に細かい粒子となり、
アレンの心臓の一部と化して彼の命を救った。
そして、まだ彼の身体の一部として戻りきれないイノセンスたちが
彼の周りを覆い、こうして護っている。
それは、彼が神に愛されている何よりの証しではないのだろうか。


その証拠に、アレンに生きて欲しいと強く願った時、
ユウにアレンを呼び戻す力を授けてくれたのは、
間違いなくあの神だったからだ。


神田は落ち込むアレンを元気付けようと、
頭に手を当て、その柔らかい髪をクシャリと掴む。



「……お前のイノセンスは……お前にしか使えねぇだろうが?」
「……え……?」
「お前、転生するとき、神に何を願った?」
「あ……え、ええっと……その……」



アレンは……あの時……。


剣を胸に突き刺し、血塗れで息絶えようとしている恋人を目の前にして、
自分の命に代えても救いたいと思った。
大好きな恋人を、何よりも大切な愛しい人を救いたいと、
強く、強く願った。


自分は非力で、この手に何の武器も持っていない。
故に大切な者の命を救う事も出来ない。
ユウが手にするファントムソードまでとはいかなくとも、
自分にも使いこなせる武器が欲しいと願ったのだった。








大切な者を救うための、不滅の刃を……

   ……ボクにも……クダサイ……。




















「俺は、永遠にファントムソード……六幻の使い手でありたいと願った。
 この呪われた剣に魅入られるのは、俺一人で十分だからな……。
 そして、この剣で、永遠に大切な者を護ると……神に……誓った……」
「……えっ?!
 じゃ、じゃあっ、自分から望んで、その印を胸に刻んだんですか?」
「……ああ……
 己の命を削る事で、大事なモノを護れるなら、それに越したことはねぇだろ?
 この印は俺の魂と六幻を繋ぐ契約印だ。
 六幻はこの俺の命を吸って、より強くなる。
 強くなって……強大な敵を打ち砕くんだ……」




────お前を……護るために───




「……ユウ……」




神がユウの望んだ六幻を与えたとするなら、
自分にもまた、望んだこの左手を与えてくれたに違いない。


その意味を知らぬうちは、この醜い左手を呪っていた。
何故自分はこんな醜い姿に生まれてきたのか。
この左腕のせいで、自分は誰にも愛されず、
幼いころから養父以外の愛を知らずに育ってきたのだ。


だが、その左腕…イノセンスが、神の与えてくれた物とするなら、
全ては愛しい者を護るためだったのだと解かる。
自分がユウを救いたいと、彼の助けになりたいと思うなら、
他に誰の愛情もいらない。
ユウさえいれば、その愛さえあれば、他には何もいらなかったのだ。



「僕……またイノセンスを、この手に取り戻すことが出来るんでしょうか?」
「……ああ……出来る……」
「本当に?」
「ああ……お前ならな……」
「……うん……ユウがそう言ってくれるなら、何か頑張れそうです……」



神田の腕の中で、アレンがはにかみながら微笑む。
その笑顔が眩しくて、神田は目の前にある可愛らしい唇に
啄ばむようなキスを一つ落とした。



「安心しろ……お前がここでイノセンスを取り戻すまで、
 俺がお前を護る。
 そして、お前をこんな目に合わせた奴は、俺が必ずブッ殺す!」



神田の一言で思い出した、ティキとの死闘。
彼をここまで追い詰めたのは、明らかに自分だ。
ティキが想いを寄せるユウの愛を得、
その結果、彼も天界から追われ、ノアになった。


だが、だからといって、自分がティキに殺されなければならない謂れはない。
おそらくこのままでいれば、彼はやがて神田をも狙うだろう。
なら、自分はもっともっと強くなって、もう一度彼と対峙しなければいけない。
ちゃんと闘って、自分たちの縺れた黒い糸を紐解こう。


もし、その結果、彼を殺さなければならなかったとしても……。



「ユウ……僕なら……大丈夫です。
 ほら、ここにはフォーもいるし。
 それに……あのティキとは、僕に決着を付けさせて欲しいんです。
 僕と彼は、なんてったって、永遠の恋敵ですから!」



小首をかしげニコリと微笑む表情に、さっきまでの翳りはない。
多分、アレンの中で何かが吹っ切れたのだろう。


ティキに心臓を抉りぬかれた感触。
そして訪れた、明らかな死の恐怖。
死を実感した瞬間、脳裏に浮かんだ神田の横顔と悲哀。
死にたくないと……神田と別れたくないと祈った刹那。


それらが全て、目の前のユウの温もりによって払拭された気がした。
確かに感じる肌の温もりが、アレンの心を優しく満たしていく。



「ユウ……僕は、これから先何があっても負けません。
 誰がどんな邪魔をしてきたって、誰よりもキミを愛してるって……誓えます!」



拳を小さく握り締め、まるでガッツポーズをするように胸の前で身構える。
その姿が妙に可愛らしくて、神田は思わず笑いを零した。



「……って……お前、それでも愛の告白のつもりか?
 ったく、色気もそっけもねぇな……」
「……えっ? そ、そうですか……?」



慌てるアレンを優しく抱きしめると、優しく口付ける。
永遠とも思える長い口付けに、アレンは眩暈を感じて再び床へと倒れこんだ。


繰り返される抱擁が堪らなく嬉しい。
この腕を二度と放したくない。
そう互いに強く思っては、何度も気持ちを確かめ合う。
濃霧になったイノセンスの欠片が、大きな翼と化して二人を覆っていた。


あの日天界から地上に堕ちた二人の願いは、
今も絶えることなく互いの心の中にあった。







────大切な人を……護りたい────







その想いは時空を経てなお、脈々と二人の中で紡がれていく。


そして、いつか……それが遠い未来であったとしても。
争いのない、平和な世界が訪れたなら、
その時は二人手を取り、また天界へと舞い上がろう。
大きな白い翼を翻し、美しく幸せだった、あの青い空の彼方へと……。











    いつか……かならず……その日はやってくる。

    そんな二人の……夢を信じて……。





                                        







                                  〜FIN〜 













≪あとがき≫

『天使たちの紡ぐ夢』
長い間お付き合いくださいまして、本当に有難うございましたm(_ _)m
途中、オフ活動に専念したりしていて、更新が滞ったりしたにも拘らず、
文句も言わずに気長に待っていてくださった皆様には
本当に頭が上がりません;
感想とか色んなコメントも頂いたりして……。
本当に嬉しかったですvv
皆様の励ましのお蔭で、最後まで頑張れたという感じです(#^-^#)

これからもオンにオフにとまた素敵な神アレ小説を書いていきたいと思いますので、
末永く応援をヨロシクお願い致します〜〜〜〜m(_ _;)m

応援して下った皆様に、心から愛を込めて〜〜〜(^3^)-☆chu!!








                                  
ブラウザを閉じてお戻り下さい★

〜天使たちの紡ぐ夢〜   Act.18

もう二度と離れない。


離れはしない……。


例えどんな運命が、二人を阻もうとも……。